車検の見積もりをお渡しすると、金額の合計を見て黙ってしまう方がいます。次に出てくる言葉は、だいたい決まっています。「これなら買い替えたほうがいいですかね」です。
結論からお伝えします。判断は合計額では決まりません。決まるのは、見積書の項目です。
同じ25万円でも、直せば当分もつ車と、次の車検でまた同じ額が並ぶ車があります。合計だけを見ていると、その違いが消えます。
筆者は三級自動車ガソリン・エンジン整備士です。整備工場で3年勤めたあと、現在はガソリンスタンドで車検の見積もりを作る側にいます。
査定額や買取相場は担当していないため、いくらで売れるという話は書けません。書けるのは、見積書の中身の話だけです。
結論|見積書は3つに分かれています
見積書を渡されたら、合計の前に、次の3つに分かれているかを見てください。
| 区分 | 中身 | 動かせるか |
|---|---|---|
| 法定費用 | 自賠責保険料・自動車重量税・印紙代 | 動かせない |
| 今回やらないと危ない整備 | 車検に受からない部品/受かっても安全上よくない部品 | 動かせない |
| 次の車検でもいい整備 | 今交換しなくても、あまり問題にならない部品 | 動かせる |
金額が同じでも、2つ目が多い車と3つ目が多い車では、判断は正反対です。
3つ目が並んでいるだけなら、今回は見送って通すという選択ができます。2つ目が並んでいるなら、金額を削る余地はほとんどありません。
法定費用は、どこで受けても同じです
自賠責保険料・自動車重量税・印紙代は、法律で決まっている費用です。店を変えても金額は変わりません。
割合の感覚をお伝えします。車検を通すだけで作業がほとんど発生しない車なら、総額の半分近くが法定費用です。 作業が多少入る車で、2〜3割まで下がります。
見積もりが高いと感じたとき、まず確認したいのは総額に占める法定費用の割合です。割合が小さいほど、整備の中身が大きいということです。 金額の話は、そこから先にあります。
自動車重量税は経過年数で変わる仕組みがあります。金額は車両重量とエコカー区分で変わるため、一律には示せません。国土交通省の「次回自動車重量税額照会サービス」で、車台番号から次回の税額を確認できます。
「走る・曲がる・止まる」に当たる部品を並べます
車検の記事でよく見かける判断基準があります。「走る・曲がる・止まるに直結しないパーツは外す」という切り分けです。
切り分け自体は間違っていません。問題は別のところにあります。3要素に当たる部品が何なのかを、車に詳しくない方は知りません。 基準だけ渡されても、自分の見積書には当てはめられません。
現場の見積もりで金額が上がりやすい部品を、3要素に当てはめます。
| 要素 | 当たる部品 |
|---|---|
| 走る | イグニッションコイル、スパークプラグ、ドライブシャフト、タイヤ |
| 曲がる | タイロッドエンドブーツなどのブーツ類、ロアアーム、タイヤ |
| 止まる | ブレーキパッド(ブレーキライニング)、タイヤ |
タイヤは3つすべてに入ります。 走る・曲がる・止まるのどれにも関わり、加えて車体を支えています。外す判断の対象には、まずなりません。
バッテリーは3要素に当てはめにくい部品です。エンジンを始動する時点で使うため、走る前の「動くか動かないか」に属します。3要素の枠の外側にある、と考えるほうが正確です。
並べると分かります。金額が跳ねる項目は、ほとんどが3要素のどれかに当たります。
「直結しないものを外す」と言われても、外せるものはあまり残りません。あの切り分けは、なるべく安く済ませたい方に向けた、最低限の線引きです。 見積もりが大きく下がる魔法ではありません。
ブーツ類やサビは、一見すると走行に直結しないように見えます。破れたブーツを放置すれば中が傷み、部品ごとの交換に変わります。年数だけが経った車で何が進むかは、車の乗り換え時期は年数では決まりませんという記事にまとめました。
「車検に通るかどうか」で決めると、あとで高くつきます
見積もりを前にして、「これは車検に通りますか」だけで決めようとする方が、往々にしていらっしゃいます。
通るか通らないかは、その場をしのぐ基準です。通る状態と、良い状態は違います。
そういう方には、現場では強めにお伝えしています。
今は最低限で済んでも、いずれ最低限のベースが上がります。そうならないために今のうちからやっておくほうが、車のためでもあり、お財布のためでもあります。
最低限のベースが上がる、というのが要点です。 今回ぎりぎりで通した車は、次の車検では今回見送った分も一緒に来ます。1回ごとに見れば安く済んでいても、2回3回と重ねると逆転します。
車検を通すたびに「今回だけ」を選び続けると、選べる幅そのものが狭くなります。 予防的に交換する提案は、金額を上乗せするためのものではありません。
20〜30万円が、話が出る線です
現場の感覚として、見積もりが20〜30万円あたりに乗ると、乗り換えの話が出ます。車種や状態で変わるので、目安として受け取ってください。
業者が決めた基準ではありません。 お客様が実際に口にする線として、そのくらいだという話です。
金額そのものより大事な点があります。今回で終わる出費か、次の車検でも続く出費かです。
1か所だけ大きな交換が来たなら、直して乗り続けたほうが安く済みます。あちこちに交換が並んでいるなら、次の2年でも同じ金額が来ます。
見積書の項目を3つに分けたとき、「今回やらないと危ない」が並んでいる車は、後者になりやすいです。
迷ったら、並べるものが2つあります
それでも決められないときは、次の2つを並べてください。
- 次の1年で、いくら出ていきそうか(車検の見積もりで分かります)
- いま手放したら、いくら戻るか
走行距離が伸びている車では、この2つが逆転することがあります。実例は走行距離10万キロの車は売れますにまとめました。
よくある質問
車検で10万円は高すぎますか?
高いかどうかは、法定費用を引いてから考えてください。
作業がほとんど発生していない車なら、10万円のうち半分近くを法定費用が占めます。残りが整備費用です。整備の中身が3つのどれに当たるかを見れば、高いかどうかは自分で判断できます。
40万円と言われました
金額だけでは判断できません。項目を見てください。
40万円のうち「今回やらないと危ない整備」が大半なら、削る余地はほとんどありません。「次の車検でもいい整備」が混ざっているなら、今回の総額は下がります。
相見積もりは取ったほうがいいですか?
取っていただいて構いません。法定費用はどこでも同じですが、整備費用と基本料は店によって変わります。
比べるときは合計額ではなく、同じ項目が入っているかを見てください。 安いほうが「次の車検でもいい整備」を外しているだけ、という場合があります。
部品の持ち込みはできますか?
店によります。私が勤めている店では受けていません。
持ち込みを検討する場合は、作業だけを受けてもらえるか、部品の不具合が出たときの扱いがどうなるかを、先に確認してください。
車検を通してすぐ売るのは損ですか?
査定額にどう反映されるかは専門ではないため、断定は避けます。
整備の側から見ると、答えは2つに割れます。
支払った側から見れば、使い切れません。 大きな交換をしたばかりの車は、次の2年の出費が減ります。直した直後に手放すと、減った分の恩恵を自分では受けられません。
買う側から見ると、有利に働くと聞きます。 車検が長く残っている車は、次に乗る人が整備にかける手間が減ります。満了日までの期間は長いほうがよいとされます。
どちらがどれだけ効くかは査定額の話です。現場で聞く範囲では「車検が残っているほうが売りやすい」ものの、金額でいくら変わるかは書けません。
車検が切れてしまった場合は、話が変わります。 通すには時間が要り、予約が埋まっていれば受けられません。切れた車をどう扱うかは車検切れの車を売るなら、通さずに出してくださいという記事にまとめました。
まとめ|項目で読めば、自分で決められます
- 判断は合計額では決まらない。見積書の項目で決まる
- 見積書は「法定費用」「今回やらないと危ない整備」「次の車検でもいい整備」の3つに分かれる
- 法定費用はどこでも同じ。作業がほとんどない車なら総額の半分近く、作業が入ると2〜3割
- 金額が跳ねる項目は、ほとんどが「走る・曲がる・止まる」に当たる。 直結しないものを外しても、大きくは下がらない
- 「車検に通るか」だけで決めると、最低限のベースが上がっていく
- 20〜30万円あたりで乗り換えの話が出る。金額より「今回で終わるか、続くか」
見積書は、金額を伝える紙ではありません。その車がいまどういう状態かを、項目で伝える紙です。 そこを読めば、通すか手放すかは自分で決められます。

