10万キロが近づいてきた。そろそろ売ったほうがいいのか、まだ乗れるのか。
調べると「10万キロでも売れます」「高く売るコツ」という記事が並びます。書いているのは、ほとんどが車を買い取る側と売る側です。
売れるかどうかは、もう答えが出ています。 決まっていないのは、売るべきか、乗り続けるべきかのほうです。
そして、その判断を決めるのは走行距離ではありません。これから出ていく修理代です。
筆者は三級自動車整備士の資格を持ち、整備工場でバス・トラック・普通乗用車の整備を3年経験しました。現在はガソリンスタンドで車検の見積もりを担当しています。
査定額や相場は専門ではないため書きません。 書けるのは「これから何にいくらかかるか」のほうです。
結論|10万キロでも売れます。問題はその先です
売れます。ここは各社の説明が一致していて、争う点がありません。
理由は2つです。人気車種には国内の需要が残っていること。もう1つは海外への輸出需要で、20万キロ、30万キロでも走る車として買われていきます。
そもそも10万キロという数字に、機械的な意味はありません。年間1万キロを10年で10万キロという計算から、買い替えの目安として定着した数字です。部品が10万キロで一斉に壊れる設計にはなっていません。
売れるかどうかで悩む段階は、ここで終わりです。
問題は「乗り続けると、この先いくらかかるのか」を知らないまま、売るかどうかを決められないことです。 そこから先を書きます。
車検見積もりで、10万キロ級によく出てくる項目
見積もりを出していて、10万キロ前後の車でよく並ぶ項目です。
以下はすべて、おおよその部品代のみです。工賃は店によって変わるため含んでいません。
| 項目 | 部品代の目安 | 幅がある理由 |
|---|---|---|
| イグニッションコイル+スパークプラグ | 約1〜3万円 | エンジンの気筒数で必要な本数が変わるため |
| ブレーキパッド(またはブレーキライニング)前後 | 5千〜3万円 | 軽自動車からミニバン・スポーツカーまで車格の幅があるため |
| タイミングベルト | 1.5〜4万円 | ベルト本体は安いほう。周辺部品と工賃が乗る |
| ベルト類(クーラーベルト・ファンベルト等) | 2.5千〜1万円 | 軽自動車から大型車・輸入車まで幅があるため |
繰り返します。上の金額は部品代だけです。実際に払う額はここに工賃が乗ります。
数字に幅があるのは、まとめ方が雑だからではありません。車によって本当に変わるからです。
理由は2つあります。1つは車格です。 軽自動車とミニバンでブレーキの部品代が同じにはなりません。ベルト類も、軽自動車と大型車・輸入車では別物です。
もう1つは気筒数です。 イグニッションコイルもスパークプラグも、気筒の数だけ本数が要ります。 気筒が多い車ほど、同じ作業でも部品代が上がります。
自分の車がどのあたりかを当てはめて読んでください。
タイミングベルトは、ベルトの値段で判断しないでください
タイミングベルト自体は、部品としては安いほうです。
高くつくのは周辺です。テンショナーやウォーターポンプなど、同時に交換する部品が付いてきます。 そこに工賃が乗ります。
多くの記事は「10年、または10万キロが交換の目安」とだけ書いています。目安としては合っていますが、その1行では、なぜ見積もりが高くなるのかが分かりません。
実際に来たもの
見積もりや整備で実際に扱ったものです。
振動と、エアコンをつけたときの回転の落ち込み
10万キロを超えた車でした。お客様の申告は2つです。
- 振動が気になる
- エアコンをつけるとエンジンの回転が下振れる
確認すると、イグニッションコイルの電圧が不安定な箇所がありました。故障診断にかけたところ、過去の履歴に失火が記録されていました。
症状の出方は地味です。走らなくなるわけではありません。「なんとなく調子が悪い」で乗り続けられてしまう種類の不具合です。
異音
10万キロ弱の車で「異音がするから見てほしい」という依頼でした。
原因はオルタネーターでした。お客様に伝えたところ交換の希望があり、後日交換しています。
どちらも、乗っている本人が先に気づいた不具合です。 振動、エアコンを入れたときの回転、異音。言葉にして伝えられれば、点検はそこから始められます。 見積もりを頼むときは、気になっていることをそのまま話してください。
案外、壊れないもの
10万キロと聞くと、エンジンや駆動系の寿命を心配する記事が目に付きます。現場の感覚は少し違います。
整備をしっかりおこなっている前提でいえば、エンジン・ミッション・ラジエターは案外もちます。
「整備をしっかりおこなっている前提で」を外さないでください。 オイル交換を飛ばし続けた車まで同じとは言えません。車種による差もあります。
距離そのものより、そこまでどう乗られてきたかのほうが効きます。
だから中古車を見るときも、走行距離の数字より整備記録簿を見たほうが分かります。何を、いつ交換してきたか。5万キロで手入れをされていない車より、12万キロで記録の残っている車のほうが安心できます。
修理代が、車の値段を超えることがあります
ここが判断の分かれ目です。
経年車で、走行距離は10万キロ以上。バッテリー上がりで入ってきた車がありました。
調べると、オルタネーターが発電できていませんでした。 交換しています。
そのときお客様が「そろそろ車を手放そうか」と考えていると話されたので、簡易的に買取の見積もりを出しました。約3万円でした。
修理して乗り続けるか、3万円で手放すか。 その判断が、その場にありました。
約3万円は相場ではありません。 その1台について店で出した簡易的な見積もりの額です。同じ距離の車が同じ額になるという話ではありません。
判断に使えるのは、次の2つを並べることです。
- 次の1年で、いくら出ていきそうか(車検の見積もりで分かります)
- いま手放したら、いくら戻るか
距離を見ても決まりません。この2つを並べたときに、はじめて決まります。
動かなくなると、選択肢が変わります
ここまでは「動く車」の話です。動かない車は、話がまったく別です。
オイルの管理を長く放置して、オイルストレーナーが詰まった車は動かせませんでした。 経緯はエンジンオイルの交換時期にまとめています。
輸入車で、エンジンのベルトが切れた車も動かせない状態でした。 古い車で、油圧式のパワーステアリングをベルト駆動で効かせていたため、ハンドルが非常に重くなっていました。 冷却水の循環も止まっていて、オーバーヒートになる手前でした。
なぜそうなったかは分かりません。最低限の整備がされていなかったのではないか、というのは私の憶測です。
動かない車、事故で大きく損傷した車は、通常の買取では値段が付きにくくなります。 引き取り自体を断られることもあります。
そのときの窓口が廃車買取です。走る車として売るのではなく、部品と素材として値段を付ける仕組みのため、動かない車でも受け付けています。
申し込みの流れだけ先に書いておきます。Webで申し込んだあと、電話で内容の確認があり、そのうえで査定に進みます。 電話が来る前提の窓口です。連絡が取れないと見積もりが出ないまま止まります。
一括査定の電話については車の一括査定のデメリットにまとめました。電話が来る前提で構えておく点は共通です。
それでも乗り続けると決めたなら
「まだ乗れますか」と聞かれたとき、現場ではこう答えています。
日本車であれば、乗ることはできます。ただ今後、故障などで交換する部品は出てきますし、値段も高いものがあります。ここまで大事に乗ってこられた車です。今後のリスクも考えたうえで、それでもこの車に乗っていくということであれば、問題なく乗れます。
「乗れます」でも「寿命です」でもありません。リスクを承知で選ぶなら乗れる、という答え方です。
10万キロは、車が終わる線ではありません。出ていくお金の性質が変わる線です。 そこを分かったうえで選べば、乗り続けるにしても手放すにしても、自分で決められます。
よくある質問
10万キロで買い替えたほうがいいですか
距離では決まりません。次の車検の見積もりを見て、次の1年でいくら出ていくかを確認してから決めてください。
距離が多いと値段は付きませんか
査定額と相場は専門ではないため、いくらになるとは書けません。
書けるのは窓口の話です。動く車なら通常の買取、動かない車なら廃車買取と、入り口が変わります。
タイミングベルトは必ず交換しないとダメですか
車種によって、タイミングベルトではなくタイミングチェーンを使っているものがあります。まず自分の車がどちらかを確認してください。
ベルトの場合、部品代の目安は1.5〜4万円です。ここに周辺部品と工賃が乗ります。
オイル交換をサボっていました
距離より、そちらのほうが効きます。放置した場合に何が起きるかはエンジンオイルの交換時期にまとめています。
売る前に洗車したほうがいいですか
考え方は車を売る前に洗車すべきかにまとめています。
まとめ|距離ではなく、次の1年の見積もりで決めてください
- 10万キロでも売れます。 売れるかどうかで悩む段階は終わりです
- 決めるのは、次の1年で出ていく修理代と、いま手放したら戻る額の比較です
- 車検見積もりでよく出るのはイグニッションコイル+プラグ 約1〜3万円/ブレーキ前後 5千〜3万円/タイミングベルト 1.5〜4万円/ベルト類 2.5千〜1万円。すべて部品代のみで、工賃は含んでいません
- タイミングベルトはベルト本体ではなく、周辺部品と工賃で高くなります
- 整備をしてきた車なら、エンジン・ミッション・ラジエターは案外もちます
- 修理代が車の値段を超えることがあります。 オルタネーターを交換した車で、買取の簡易見積もりが約3万円だった例があります
- 動かない車は通常の買取では値段が付きにくく、廃車買取が窓口です
距離は結果であって、判断の材料ではありません。見積もりを1枚取れば、迷う時間は短くなります。
